稲沢のむかしばなし 老人と大雨
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”かいぼり”って何か知ってますか。きみは、魚を取るときどうしてますか。タモ、アミ、サオなどを使っていますね。
”かいぼり”というのは、ヌマや池などの水をかいだし、水がなくなると、ピョン・ピョンはねる魚を取るほうほうをいいます。これは、このかいぼりで、ヌマの魚を取ってしまったために、ヌマのヌシをおこらせてしまった話です。
むかし、むかし、大里のある村では、かいぼりによってたくさんの魚をとり、秋まつりの日のごちそうにしていました。
ある年のこと。村のものが神社に集まり、かいぼりの日どりを決めていました。
「ことしは、ええ天気じゃで、米もほうさくまちがいなしじゃのぉ」
「そうじゃ、そうじゃ。コガネ色のイネがまぶしいわぁ」
「ところで、ことしのかいぼりの日は、いつがええじゃろのぉ」と、話し合っていると、かみの毛がまっ白の、ボロボロのきものをきたおとしよりが入ってきました。
「あのぉ…、ことしも、かいぼりされるのかなも。そのぉ…、かいぼりをやめてほしいんだわなも。あのぉ…、そうしてまらえれば、ことしのほうさくは、まちがいなしにするからのぉ」
「見も知らぬ、じっちゃんの言うことは、きけねぇだ。かんべんしてちょ。ことしのかいぼりは、イネかり前にけっていじゃ。のぉ、村のしゅう。」という、わかものの一声で決まってしまった。
かいぼりの日。朝から雲一つないすばらしい天気だった。村の人々は、バケツやクサミを手に、大きなヌマに集まった。村人は、いっせいにヌマの水をかいぼりしはじめた。大きなヌマなので、なかなか水がへりません。
「おーい、がんばれや。あと少しで、魚が見えるようになるぞォ」
「にいちゃん。いま金色をした魚がピョンとはねたみたぁだ」
「なに、それみんな、がんばろみゃあ」
お昼ごろになると、ヌマの水もほとんどなくなり、たくさんの魚のすがたがみえるようになりました。
魚を集めてみると、いつもの年のすうばいの多さです。
「ことしは、えろうぎょうさんの魚がとれたのぉ」
「とくに、この金色の二ひきのコイ。こんなうつくしいのは、生まれて初めて見たぎゃあ。食うのがもってえねぇだ」
こうして、秋まつりのじゅんびができ、イネかりを3日後にむかえたある日。
ポツン、…ポツン…。
にわかに雨がふりだしたと思うと、ザァーザァーぶりの大雨になった。この雨は、何日もふりつづき、たちまち田んぼを水びたしにし、イネをのみこんでしまった。
「あぁ…、この雨は、かいぼりをしたハツにちげぇねぇ。もう、ことしの米はみんなくさって、食べられねぇ」
「こりゃあ、ヌマのヌシのタタリにちぎぁにぁ。みんなでヌシさまにあやまるじゃ」
村の人たちは、ヌマのふちに石じぞうをたて、毎日おいのりをしました。そして、数年は、かいぼりをしなかったそうです。このいのりがつうじたか、大雨はふらなくなり、ほうさくの年がつづいたそうです。また、かいぼりしても、ほしいだけしか魚をとらず、あとはヌマに帰してやったので、たくさんの魚がヌマに住むようになったといわれます。
きみも、魚とりした後で、小さな魚はもとどおり、川や池に帰してやってね!