稲沢のむかしばなし 仏の新佐(稲沢市北市場町)
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北市場町に伝わる「仏の新佐」というお話です。
今から、150年程前のこと。北市場に「仏の新佐さん」とよばれる、こころのやさしい庄屋様がすんでおった。しかし、生まれつき幸せに縁遠かったのか、二十歳の時、両親をなくし、また親からもらった財産も災害にあい、わがす三十両程をのこすのみと、なってしまった。でも、不幸にめげず。新佐さんのこころのやさしさは、ちっとも変わらなかった。
ある日、新佐さんが野良仕事から帰ってみると、家の中がメチャクチャに、あらされておった。
「しまった、ドロボウだ」
家の中に入り、急いでお金のある所へ、行ってみた。しかし、お金はぜんぶなくなっていた。
「あーあ、全部とられてしまった」
新佐さんは、がっかりしてすわりこんでしまった。しばらくして、犯人は清洲に住んでいる者のしわざだと、いうことがわかった。しかし、もうそこにはおらなんだ。
「これも運命だ。あきらめよう」
新佐さんは、このことをわすれようと、一生懸命、野良仕事にはげんだ。
数年たったある日のこと、代官所からお呼びがかかった。
「新佐、お前の家に入った時、ドロボーをとらえたのだが、どれくらいとったかを言わんのだ。たぶん、十両をこえると、死罪になることを、おそれているのであろう。新佐、ほんとうは、いくらとられたのだ」
「はっはい、ええ、九両でございます」
「なに、九両とな」
代官は、新佐さんのこころを読みとったのか、にっこりわらって、
「しかと聞いたぞ。まちがいはないな」
「へへー、まちがいはございませぬ」
新佐さんが帰ろうとすると、牢屋の方から、「だんな、すまねえ、すまねえ」となきながらわびる声が、いつまでも聞こえていた。