稲沢のむかしばなし 孝行キツネ(稲沢市井之口町)
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井之口町に伝わる「孝行キツネ」というお話です。
「トントン、トントン」
「こんばんは、文斎先生、春日村の孝吉です。おきてくんせえ。急病人です。」先生は、戸をたたく音で、めをさました。
「おいおい、だれじゃ、こんな真夜中に」
「先生、おっかあが苦しんでいるんです。ついてくだせえ」
先生は、若者があまりたのむので、くすり箱をもち、ねむい目をこすりながら、孝吉の後をついていった。いつのまにか、お寺の近くまで来ていた。
「孝吉っあん。こりゃ、春日村の仏恩寺じゃないか」
「へぇー、うちはこのうらでごぜえます」孝吉は、先生を小さな小屋へ、つれていった。中に入ってみるとおばあちゃんが、ウンウンとうなっていた。
「どれ、おばあちゃん、口を大きく開けて。ふんふん、こりゃあ食べすぎじゃ。たいしたことはない」といって、くすりをのませた。しばらくして、おばあちゃんの痛みは、とれてきた。
「ありがとう、ごぜえました」と孝吉さんは頭を下げた。
「よかったのう、孝吉さん。あんたのまごころが、通じたんじゃよ」と孝吉さんの肩をポンとたたいた。
先生は孝吉さんが出した、お茶をのんだあと、お礼のお菓子を手に、家へ帰っていった。家について、つつみを開けようとしたら、いつのまにか、つつみ紙は、フキの葉に、変っていた。
そして、お菓子は食べずに、そのままねむってしまった。あくる朝、先生はメガネを孝吉のところにわすれてきたことを思い出した。
「そうだ。ついでにおばあちゃんの容体も、みてやろう」
先生は、さっそくお寺のうらへいってみた。ところがどうしたことか。家はなく墓場があるだけ。メガネは墓石の上に、おいてあった。
「キツネめだましおって。まあよいわ、おばあちゃんもよくなったんだろう」
先生がメガネをもって、帰ろうとした時、まつ林から「コーン、コーン」という、なき声がきこえた。