稲沢のむかしばなし 井之口村の川口どん(稲沢市井之口町)
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井之口町に伝わる「井之口村の川口どん」というお話です。
昔、お侍には名字があったが、お百姓さんや商人には、名字がなかった。ところがあるとき、お百姓さんにも名字をつける法律ができ、井之口村の人たちは、大喜びした。
「わしらにも、名字がつけられるそうな」
「でも、どんな名字をつけたららいかのう」
お百姓さんたちは、それ以来、仕事もせずに、毎日毎日、どんな名字にしようかと、考えていた。これを見た地主は、「みんな、もっと仕事に、精をださにゃあかん」と、しかった。お百姓さんたちは、しかたなく、ぶらぶらと田畑へ、でかけていった。ところが、田畑へ行ってみると、野菜や稲が、枯れかかっていた。「地主様、えらいこっちゃあ。水がどこかへ行ってしまった。」「何、水がない」
さっそく、地主様をはじめ村の人たちは、表に出た。でも、家の前の川には、たっぷりと水があった。
「うーん、これはおかしい。よし、様子をみにいこう」
みんなは川の堤防を、くだっていった。途中、橋のところまできたとき、子どもたちが、何やらさがしておった。地主様はきいた。
「何してるだ」
「おれのぞうりが、川にくわれちまっただ」
「川にくわれたと」
みんなは橋の下をみた。すると、食べかすや草などの大きなごみが、たまっていた。
「ははー、これだな原因は」
地主様は、さっそく村の人たちに、引き上げさせた。そして、つぶやいた。
「あのまま、川の口がふさがっていたら、作物はみんな全滅じゃった。あの川の口が・・・。そうじゃ、わしの名字を”川口”にしよう」
村の人たちは、地主様が”川口”という名字にしたもんだから、わしも、わしもと、みんな川口にしてしまったということじゃ。現在も井之口町には、川口という名字が多い。