稲沢のむかしばなし ばくろうの加玄太(稲沢市子生和町)
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ばくろうというのは、馬をうったり、かったりすることを、仕事としている人です。むかし、東海道は、熱田から桑名へ行くのに、船をつかっていました。このお話は、船にのって馬をはこぶとちゅうにおこった、お話です。
子生和村には、加玄多というばくろうが、すんでおった。
ある日、加玄多は伊勢の殿様に
「いい馬が手に入ったら、ぜひわしに、ゆずってくれ」
とおおせつけられた。
少したったある日、それはすばらしい名馬を手に入れ、さっそく殿様のところへ、もっていくことになった。そして、熱田から馬といっしょに、船にのって伊勢へむかった。
しばらくして、船はおきに出た。ところがとつぜん、船がとまってしまった。
「船頭どうしたんだ」
「船底にサメがいっぱいだ。わしらをねらっておるぞ」
「どうやって、ぬけだすんだ」
すると船頭はさけんだ。
「だれかエジキになってくれ」
さあたいへん。船の中はおおさわぎとなってしまった。そして、だれもサメのエジキになるものは、いなかった。
するとだれかがいった。
「ひとりひとりが手ぬぐいをたらすんだ。そして、サメにひかれたものが、エジキになろうじゃないか」
みんなはしかたなく、『おれだけはたすかりますように』といいながら、おそるおそる手ぬぐいをたらした。
するとなんと、加玄多の手ぬぐいが、グググーとひいた。
「よりによっておれのところへ、あーあ、これでおしまいだ。・・・・・・そうだ、馬だ!!たいせつな殿様の馬だが、みんなの命には、かえられん」
加玄多は、かけ声とともに、馬を海へつきおとした。サメが馬めがけてあつまってきた。そして、馬はかなしそうななき声とともに、海へしずんでいった。
そのあと船はスーとうごき出し、ぶじ伊勢につくことができた。
のっていたみんなは、加玄多にこころから、お礼をいった。
加玄多は、さっそく殿様に、このことを話した。殿様は、自分の馬が人助けをしたことをよろこび、加玄多にほうびをあたえたということです。