稲沢のむかしばなし キツネのお産(稲沢市片原一色町)
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江戸時代に、お医者さんは、長崎に行くのがユメだった。このお話は、そんなりっぱなお医者さんをだました、キツネのものがたりです。
むかし、むかしの話です。ある村に、妙安(みょうあん)という、りっぱなお医者が、すんでいた。
妙安先生は、長崎までシュギョウに行ってきたというお話です。お産から、むずかしいシュジュツまでやってのける、名医でした。
このうわさで、村のみならず、とおくの村からも、びょう人が来るようになった。妙安先生は、まい日、かんじゃのしんさつにおわれて、休むひまもありません。でも、びょう人ひとりひとりを、妙安先生は、しんせつにみてくれました。
「おなかがいたいよお、おなかがいたいよお」
「どれどれ、男の子がそんなになくものじゃない、おなかで虫があばれとるんじゃ。このハッパをせんじてのみなさい。すぐなおるよ」
[先生、ありがとうございます。ありがとうございます」
ある日の夜、妙安先生はユメをみました。
キツネが、手を合わせて、何かたのんでいるのです。なんども・なんども、キツネは手を合わせて、たのんでいます。ハッとめざめた妙安先生は、
「ふしぎなユメだのォ」
と、しばらくボーッとしておりました。
あくる日。この日も朝早くから、たくさんのびょう人が、たずねてきました。いそがしい妙安先生、きのうのユメなど、すっかりわすれていました。
夜になって、やっとひと休み。ところが、げんかんの戸をたたく音、ドンドン!
「妙安先生、ワシのかかあ(つま)が、さんけずいて、えろう(たいへん)くるしがっとる。ひとつ、みに来てくれんかのォ」
しんせつな妙安先生のこと、つかれているのもかまわず、じゅんびをはじめた。
「そなら、すぐ行く。あんないしてくれ」
ついたところは、村はずれの家。まわりは、田んぼばかり。
妙安先生は、テキパキと、男にも湯をわかすよう、しじします。こうして、ひとばんじゅうかかって、6人のかわいい、赤ちゃんが、ぶじ生まれました。
「よくがんばったね。6人のかわいい子どもたちの、おかあさん」
女は、目になみだをためて、妙安先生に手を合わせていました。
家に帰ると、妙安先生は、つかれのためか、ぐっすりとねむってしまいました。
あくる朝。妙安先生は、目がさめて、びっくりしました。なんと、体じゅうに、ドウブツの毛が、いっぱいついているのです。
ふしぎに思った妙安先生、さっそくきのうの夜の家へ行ってみた。しかし、そこは草むらで、家などありません───。
”コォ―ン・コォ―ン”ふと見あげると、キツネの親子がこちらを見ています。元気な子どもキツネが6ピキ、うれしそうに、おかあさんキツネのまわりを走っています。───妙安先生も、うれしくなりました。