稲沢のむかしばなし おきくギツネ
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むかし、むかし、稲沢の東の方にある大里村から、清洲にかけて、たくさんのキツネが住んでいました。
これは、メスギツネが『さむらい』にばけて、村人たちをだますお話です。
ある日、大里村の平六と五助は、朝はやく、畑へキュウリやトマトなどをとりにでかけました。そして、それを西の方にある市場へうりにいきました。そのとちゅうで、「おとおり、おとおり」と言う、おさむらいの声がした。「おい、平六さんやあ、おさむらいさんのおとおりじゃぞ」と言って、ふたりは、みちばたにすわって、あたまをさげていました。平六は、小さな声で、「五助さんやぁ。きょうはなかなかおさむらいさんは、とおらんなぁ」「ほんとうにとおらんなぁ。ひょっとしたら、うわさの『おきくギツネ』にだまされたかなぁ平六さん」
すると、なにか西のほうに走っていくものが見えた。「アッ、しまった。だまされたァ」とふたりは声をあげた。ふたりは、もうくやしくて、くやしくて、その日、やけ酒をのんでねてしまいました。
それから、何日かたったある夜、二人は田んぼへ水を入れに行きました。こんども、また、「おとおり、おとおり」と言う声がした。こんな夜に、おさむらいがとおるはずがないと思ったふたりは、「きょうは、とっつかまえて、ころしてやるぞう」、「あたりまえじゃ。また、だまされてたまるか」と言いながら、顔をみあわせたとき、「夜に水入れとは、ごくろう、ごくろう」と言いながら、おさむらいが近よってきた。
「これは、ほんものの、みまわりのおさむらいだ」と言うがはやいか、あわてておじぎをしました。
しかし、こんども、頭を上げたときにはおさむらいは、どこにもいませんでした。
五助は、「また、だましたナァ。メスギツネめ」とさけんだ。
そして、夜が明けるころ、田んぼの水もいっぱいになった。ふたりが、家に帰りかけるとまた、「おとおり、おとおり」と言う声が聞こえてきました。
「おきくめ、こんどはにがさんぞ」と平六は、さむらいにとびつこうとしました。おどろいたことに、さむらいが、ギラッと光る刀をぬきました。ふたりは、こしをぬかしながら、「おたすけを、おたすけを・・・」
そこへ、ちょうど、おぼうさんがとおりかかりました。ふたりの話を聞いたおぼうさんは、おさむらいさんに、「いのちだけはたすけてやってください」と言うと、「よし、こんどだけはゆるしてやろう。しかし、そのかわりに、頭をそってしまえ」
おさむらいに、しかられたふたりは、ぶつぶつ言いながら、家に帰っていきました。
「なぁ、五助さんやァ。さっきのおさむらいさんは、ほんとうに、ほんものだったのかなぁ」、「そういやあ、あのぼうさんもなんだかへんだったなァ、平六さん」
どっちがどうだったか、わからなくなってしまったふたりは、手ぬぐいで頭をかくして、家へ帰りました。
やがて、五助のかみさんの大きな声がしました。
「まあ、なんだね、その頭・・・。どろだらけだぎゃ」「ひゃあっ、またまたやられた」、「わっまたばかされた」と言って、ふたりは、そのばへすわりこんでしまったとさ。